社内報のキソ

社内報のキソ

2-2.執筆

原稿作成は時間のかかる作業です。社内報担当者が関わる執筆業務のパターンとしては、取材して得た情報をもとに執筆する場合、資料をもとにストーリーを編纂する場合、寄稿原稿を校正・編集する場合など様々な状況がありますが、ここでは、いずれのケースにも通じる、伝わりやすい文章の書き方の原則を、基礎編・レベルアップ編に分けて紹介します。

分かりやすい文章の5つの定石(基礎編)

執筆を担当するなら、必ず知っておきたい、読みやすい文章を書くための5つのポイントを紹介します。苦手と感じる項目は、最初のうちはチェックリストを見ながら確認しましょう。そのうち自然に身について、意識せずとも実行できるようになるでしょう。

 

1.5W1Hをおさえる

どんなビジネス文書にも求められる5W1Hのフレームワークは、幅広い読み手に正確な情報を伝える社内報の記事でも、当然重要です。いずれかの要素が抜け落ちると、読み手に肝心なことが伝わらない可能性があります。(わざわざ示さなくても前段で主語が明らかになっている場合には「誰が」を省略します。一つひとつの文に5W1Hのすべての要素が含まれるわけではありません。)

 

社内報コンサルタントからのワンポイントアドバイス

 

文章は、書き手である自分がよく知っていることでも、読み手は何も知らないという前提で書きましょう。5W1Hは、文章を書き終えてから客観的な目で読みなおす際、漏れ落ちがないか確認するのに便利なフレームワークです。取材やインタビューの際にもそれを意識して押さえると、後で文章に起こしやすくなります。

2.内容に適した文体を選ぶ

社内報の記事でよく使われる文体には、主に「一人称で語る記事」「3人称で語る記事」「ルポ調で語る記事」の3種類の型があります。ニュースが主軸の文章が一人称で書かれていたり、社長の熱い想いを伝える記事が三人称で書かれていたりすると、読者は違和感を抱きます。記事の性質に合わせて適切な型を使いましょう。

 

A. 一人称で語る記事(主観的)

インタビューやトップメッセージなど、個人の思いを伝える時に用います。

 

(例)私の一番の思い出は、何といっても初めて受注した案件です。あまりにうれしくて、不覚にも大泣きしてしまいました。先輩の前野さんにはたくさん助けてもらい、深い感謝の気持ちと大きな達成感は、今でも忘れられません。

 

B. 三人称で語る記事(客観的)

ニュース記事・製品紹介など、語り手の個性より事実を伝えたい時に用います。

 

(例)営業担当の田辺は、その初めての案件受注があまりにうれしくて、大泣きした。その時の達成感や、助けてくれた前野に対する深い感謝は、今でも忘れられないと言う。

 

C.ルポ調で語る記事(物語調)

プロジェクトストーリーなど、対象人物がテーマについて語る臨場感を強調したい時に用います。ある程度の筆力を要しますが、物語の強弱や展開をつけやすいので、自信がついてきたら是非チャレンジしてみてください。

 

(例)「初めての案件受注ですね。」一番の思い出は?との問いかけに、田辺さんは即答した。あまりのうれしさに大泣きしたと言う。大きな達成感もさることながら、その時感じたのは深い感謝の念だった。「前野先輩にはたくさん助けられました。今でも忘れられません。」

 

 

3.書き言葉と話し言葉を区別する

話し言葉は、日常会話で自然に使う言葉ですが、文章で使うとくだけた軽い印象になります。一方、広く人に読まれることを配慮した書き言葉は、誠実でしっかりとした印象を与えます。部分的にあえて話し言葉を用いて親しみを持たせる手法もありますが、原則としては、読み手を選ばず、正確に情報を伝えるための書き言葉を使いましょう。

 

話し言葉と書き言葉の例

 

話し言葉 書き言葉
~みたいです ~ようです
~しちゃって ~してしまい
~でも、 ~だが、
いろんな さまざまな

 

 

4.「常体」と「敬体」を使い分ける

文章を書くときは原則として「だ・である」調(常体)または「です・ます」調(敬体)のいずれかの文体に統一します。媒体としての方針が決まっていることもあれば、企画毎に使い分ける場合もあります。それぞれの、メリット・デメリットをおさえて、文章の目的にあった文体を選べるようになりましょう。

 

「常体」・「敬体」のメリット・デメリット

 

メリット デメリット
常体

(だ・である)

●   簡潔な文章でリズムがつけやすい

●   意見や主張に、明確で引き締まった印象を与える

●   断定的、堅苦しい、偉そう、とっつきにくい印象を与える可能性がある

●   情緒を醸し出しにくい

敬体

(です・ます)

●   情緒的な文章で温かみや親しみを醸しやすい

●   謙虚、柔らかい、丁寧な印象を与える

●   意見や主張がぼやける可能性がある

●   語尾に変化をつけにくく、冗長になりやすい

 

 

5.推敲(すいこう)を必ず行う

意図したメッセージがスムーズに伝わるか、面白く読めるか、誤字脱字はないかなどを自らチェックして文章の質を上げる仕上げの作業が、推敲(すいこう)です。

 

原稿は熱量のあるうちに書き上げましょう。ただし、書き上げた原稿は、一度は必ず、時間を置いてから見直す必要があります。熱量に押されて書いている最中には客観的な視点を持ちづらく、冷静な目で見直すと自分で気づくことも多いからです。

 

できれば、書き上げた原稿を一晩は寝かせ、翌朝、リフレッシュした頭で推敲したいものです。そのため、余裕をもって執筆に着手する習慣をつけましょう。

 

編集後記の書き方がわからない

文章の密度を上げる際の5つの技術(レベルアップ編)

ここから先は、定石はもう十分使いこなせるという方向けに、更に一工夫して、より充実した記事作成をしていただくための視点を紹介します。社内報の記事は、幅広い読者に、何らかの気付きや行動を促したいという目的をもって書かれます。従って、第一に肝心なことは、密度の高い論理的な文章でより多くの情報を正確に伝えることですが、無駄を削って生み出した余裕の範囲で、読み手の心に訴える情動的な工夫が仕掛けられると、なおよいでしょう。

 

1.一文一意を意識する

プレゼンテーションの原則として「1スライド、1メッセージ」は有名ですが、執筆においてもまた、一文一意の原則にのっとった文章は読みやすいものです。一度に多くの情報を押し付けられると、読者はその文章を「読みにくい」と感じるものです。ダラダラと長い文章は、あれもこれもと要素を詰め込み過ぎていないかという視点で見直し、いくつかの文に分割する、句読点で区切るなど、簡潔な表現を意識しましょう。

 

長文を分割して読みやすくした例

 一週間も雨が降り続いた結果、川の水量は2メートルも増し、氾濫による洪水の可能性が高まる中、市は会議を開いて周辺地域に避難を呼びかけることを決定した。

 

〇 一週間も雨が降り続いた結果、川の水量は2メートルも増した。氾濫による洪水の可能性が高まっている。市は会議を開いて周辺地域に避難を呼びかけることを決定した。

 

 

2.反復・重複・繰り返しを回避する

一つの文章の中に同じ単語やフレーズが何度も出てくると、読者にしつこいという印象を与えます。類義語や代名詞を使う、言い方を変えるなどの工夫をしましょう。

 

語彙力向上のためには、日頃からたくさんの文章に触れることが一番ですが、自信がなければ類語辞典を参照するのも良いでしょう。文章を推敲したり査読したりする際には、同じ言葉が繰り返し出てこないかを確認し、言い換え・省略の可能性を考えることを習慣にしましょう。

 

類語辞典で確認できる例

「書く」→「綴る」「記述する」「筆を走らせる」

 

社内報コンサルタントのワンポイントアドバイス

「これ」「それ」「あれ」などの指示代名詞を使って、先に出た名詞を表す言い換えは、該当する名詞が出た直後が原則です。離れた場所で使うと、何を指しているかが曖昧になり、読み手が混乱します。

3.接続詞の省略を極める

接続詞には文と文をつなぐ重要な役割がありますが、多用しすぎると文章がぎこちなくなり、稚拙な印象を与えてしまうこともあります。接続詞がなくても十分に意味が通じる場合は、迷わず削除しましょう。特に「そして」「それから」「だから」などは、全く必要のないケースが多くあります。

 

慣れないうちは、接続詞を使って文章を書きあげてから、見直す際に、意識的に、前後の文脈を確認しながら省けるところを探していくとよいでしょう。

 

接続詞を省略した例

✖ 12時にランチを食べた。それから上野に移動した。そして動物園でパンダと記念写真を撮った。本物のパンダは可愛かった。それからお台場に行って、そしてディナーを楽しんだ。

 

〇 12時にランチを食べてから、上野に移動。動物園でパンダと記念写真を撮った。本物のパンダは可愛かった。そのあとお台場でディナーを楽しんだ。

 

 

4.リズムをつける

リズミカルな文は分かりやすく、スラスラ読むことができます。読み手を飽きさせずに最後まで読んでもらうための、リズムの技法をいくつか紹介します。

 

① 短文と長文を組み合わせる

長文が続くと読みにくく、また短文ばかりだと意味を汲み取りにくくなります。

 

② 語尾に変化をつける

「~です。~です。~です。」と同じ語尾が続くと一本調子で読み応えがありません。二文を一文にまとめる、ここぞという箇所では「~こと」などの体言止めを使う(ただし乱発はしない)、言い回しを変えるなどで工夫をしましょう。

 

③ ひらがな、カタカナ、漢字のバランスをとる

漢字が多すぎると紙面が詰まって堅苦しい印象になりますが、「この音楽を聴くと疲れたこころに沁みる」「上司や先輩とのタテの関係が重要だ」など、あえてかな・カナを織り混ぜることで文章に余裕が生まれます。

 

④ 会話形式を部分的に取り入れる

「『あの出来事が、私を大きく変えました』と田中氏は語った」など、第三者視点で書いた文章のところどころに、本人の語り口を生かしたセリフをはさむと、臨場感が増します。

 

⑤ 文章の密度を上げながらも、意図的に隙を残す

人の語り言葉は、そのままだと冗長で意味が通りにくいものです。インタビュー記事の執筆では、出来るだけ多くの情報を正確に伝えるため、原則としては文章の密度を上げる方向で調整を進めます。しかし、ここぞという感情の動く局面などでは、文字数制限の範囲で、あえて隙のある表現をのこすことで、リズム感が生まれます。

 

◆密度を上げながらも隙を残す執筆の事例:

 

(語り手の言葉)「ここが正念場だと思ったんです。ええ、この3年かかったプロジェクト成功するか失敗するかというときで。でも、プロジェクトメンバーの誰一人として逃げなかったんです。一緒に立ち向かってくれたんで、本当に感謝していますよ。自分で言うのもなんですが、”プロジェクトX”みたいな感じでした。みんなでやるぞ、やればできるんだって力が湧きましたね。」

 

 

(原稿)「3年がかりで仕掛けてきたことの正念場で、さながらテレビ番組の ”プロジェクトX” でした。そこでメンバー全員が逃げずに立ち向かってくれたことに、本当に感謝しています。みんなでやるぞ!と力が湧きました。」

 

社内報コンサルタントからのワンポイントアドバイス

 

インタビュー原稿の場合、取材の中で出てきた語り手本人の言葉を尊重しましょう。意味をなしていない流れを整えて、言い換えを使って読みやすさを工夫する編集は必要ですが、主要なところは、本人から出てきた言葉を使います。書き手の解釈でニュアンスを変えたり、想像で脚色したりすることは極力控えます。

5.リード・キャッチ・見出しで魅せる

 

社内報の記事が本文のみで構成されることは、まずありません。デザインの中に盛り込まれるリード・キャッチ・見出しの巧拙は、その記事がどれくらい読んでもらえるかに直結します。限られた文字数で心に響く表現をする、執筆の腕の見せ所です。

 

リード・キャッチ・見出しに使う言葉は、内容を正しく表現するものであれば、本文中に含まれているのと違う単語を使ってもかまいません。インタビューの中でインパクトのある言い回しが出てきたけれども、本文中では優先順位が低く使えなかったような場合、ここで生かすということもできます。

 

例1 自分に役立つ情報かもしれないと期待させるタイトル

 

✖ 海外研修について

〇 海外研修に応募して、働くフィールドを広げよう

 

例2 何を答えたのかな?と感心をひく具体的なタイトル

✖ 新入社員紹介

〇 新たに52名が仲間入り!新入社員の皆さんに~を聴きました

 

社内報コンサルタントからの、ワンポイントアドバイス

見出しは、読者と記事を結びつける重要な役割を担います。親しみやすさを強調したい場合は、問いかけや呼びかけの形にして読者の心を惹きつけるのも良いでしょう。

 

例)「もっと仕事を楽むために」という記事の見出しのバリエーション

 

◆問いかけ見出し:「○○しませんか?」と問いかけられると自然に自分の答えを想起する、人の心理を使って読者の心を惹きつけます。

 

(例)もっと仕事を楽しみませんか?

 

◆呼びかけ見出し:「○○しましょう」と呼びかけられると、自分事として向き合う姿勢が生まれ、読者は記事に温かみを感じます。

 

(例)もっと仕事を楽しみましょう

 

◆つぶやき見出し:「○○したい」と、読者の心のつぶやきを代弁するような表現をすることで、読者の共感を得ます。

 

(例)もっと仕事を楽しみたい!

インタビューの進め方 

社内報制作に欠かせない業務が、企画取材のための社員へのインタビューです。内製取材であれ、外部制作会社に委託して同席する場合であれ、「何を聞けばいいのか質問の設定に困った」「相手が思うように話してくれなかった」と悩む担当者様も多いのではないでしょうか。ここでは、そんなインタビューをスムーズに進めるためのポイントを紹介します。

 

1.インタビューは事前準備が8割

「相手が聞きたいことに答えてくれなかった」「面白みのない話しか出てこなかった」といったインタビューの悩みは、すべて「準備不足」から生じます。インタビューの成果は、準備で8割決まると言っても過言でありません。十分に準備をすることで、自分自身も楽しみつつ、効果的なインタビューが出来るようにしましょう。

 

事前準備の3つのH

インタビューの前には、”3つのH”を整えて臨みましょう。

3つのHとは、Havings(持ち物)、Heart(心)、Head(頭)です。順に詳しく説明します。

 

①Havings 「持ち物」の準備: 基本中の基本ですが、大切なものを忘れてインタビューに集中できないということを避けるため、ToDoリスト作成や前日準備の習慣などにより、万全を期しましょう。

 

名刺 初対面の相手に、自分の立場を明確にして礼儀を示します
ノート 録音をしていても、傾聴の姿勢を示すため、インタビュアーの手元の筆記用具は必要です
ペン 同上
取材依頼書 相手との事前の合意事項を確認できるものです
資料 場合によっては、自分用に用意します
バックナンバー 必要に応じてイメージを共有するのに使えます
ICレコーダー 同行者に依頼しても良いので必ず複数台で音を取れるような体制を整えていきます。携帯電話のアプリでも可
時計 部屋に時計がないこともあります。相手に気づかいをさせないタイムマネジメントはインタビュアーの必須スキルです。
カメラ 必要に応じて。性能が良ければ、携帯電話でも可

 

 

②Heart 「心」の準備: インタビューは、語り手だけではなく聞き手も緊張するものです。ほどよい緊張感は大切ですが、事前準備で以下の作業を徹底することで、過度な緊張と不安を取り除きましょう。

 

当日の流れをイメージする インタビュー全体の仕切り、やりとりの流れ、詳しく聞きたいポイントなどを、前日までにシミュレーションしておきましょう。不安な場合は、誰かにロールプレイに付き合ってもらうのも良いでしょう。だいぶ心が落ち着きます。
場所・時間を確認する 遅刻は厳禁です。相手に不愉快な思いをさせるだけでなく、自分にも余裕がなくなり取材の質に大きく影響します。事前に移動ルート・位置情報を確認して、余裕を持って現地に到着するようにしましょう。
体調を万全に整えて臨む 身体の余裕は心の余裕。自己管理は時間を割いてくれた相手への礼儀でもあります。体調を崩してインタビューに行けなかったなどということは論外ですが、前日はしっかり睡眠をとって、ベストコンディションで取材に臨みましょう。

 

 

③Head 「頭」の準備: インタビューは、自分よりもその分野についての専門的な知識や経験を豊富に持っている語り手から、深い話を引き出すために行います。しかし、聞き手がその内容や用語を全然分かっていないようでは、十分な情報を引き出すことはできず、また、時間を割いてくれた語り手に対しても失礼になります。

 

取材前の頭の準備は、インタビュアーにとってはどんなに忙しい時でも欠かしてはならない優先事項と心得ましょう。

 

頭の準備は、①相手の基本情報や質問項目を頭にインプットする②それをもとに、アウトプットの形をイメージすることの二段階で進めます。

 

①インプットの基本は以下の3つです。

いちいちメモに目を落とさなくてもスムーズに情報を引き出せるところまで準備できればスマートですが、自信がない点はカンペにまとめて持参しても失礼には当たりません。自分のことをしっかり調べて来てくれたんだなと思えば、語り手も気持ちよく話してくれます。

 

  • 1関連資料(語り手のプロフィールやアクセスできる記事)を読み込む
  • 2テーマに関連する専門用語・分からない単語を調べておく
  • 3事前情報を調べたうえで残る疑問点や絶対に聞きたいことをメモしておく

 

②アウトプットイメージをおさらいする

そのインタビューで作る最終的な紙面は、どんな形式でしょうか。「一人語り」「座談会」「Q&A形式」「レポート形式」などのスタイルがありますが、そのアウトプットイメージを具体的に思い描けば、おのずと、どのような情報を聞きたいかも浮かんでくるものです。以下で説明するラフ紙面を書き出してみるのも良いでしょう。

 

 

2.インタビューの前に作るラフ紙面の効用

ラフ紙面というのは、企画の目的や伝えたいことなど、担当者の頭の中にあることを、写真や見出しなどの構成要素とともに実際の紙に書き出したイメージ図です。

 

インタビューを行う際には、前もってこのラフ紙面を作っておくと、当日に聞くべきことがより明確かつ具体的にイメージできるようになります。また、それを早い段階で関係者に共有しておくと、打ち合わせや役割分担もスムーズになります。

 

  • ●語り手も、自分がどんな話を期待されているかがわかると準備が捗ります。例えば、「役員の方から人生における転機を語っていただく」というテーマでも「今、市場の変わり目で苦しんでいる社員に、希望を与える物語にしたい」というのと「若手社員に身近に感じてもらうため、明るい紙面でQ&A形式を5項目ほど」というのとでは「じゃあ、このエピソードかな」と事前に準備する内容も変わるし、当日の表情も違ってきます。
  • ●プロのカメラマンやライターに同行してもらう場合も、ラフ紙面を事前に共有しておけば、どんなポーズや印象の写真が必要か、記事の目的に向けて、何文字でどのようなまとめばよいかなど、イメージをそれぞれに考えてきてもらえます。

 

  • ●取材場所も、イメージに合うところを用意できます。たとえば、「会社の明るい未来を予感させたい」ならば「自然光がよく入るような窓の大きな部屋がいいですね」「それなら会社の〇〇階がいいのでは」と、事前打ち合わせも具体的に進めやすくなります。

 

インタビューが終わってしまってから「どのようにまとめたらいいのか分からない」「聞きたいことが全然聞けなかった」「仕上がってきた記事のまとめかたが気に入らない」「撮影した写真がイメージに合わない」と焦ることのないよう、インタビュー企画の段階からラフ紙面を作成し、イメージの共有に役立てていきましょう。

 

 

3.本番で大切なのは「質問力」

さて、事前の準備やラフ誌面作成でインタビューがスムーズにいくということは分かりましたが、それだけで本番が成功するとは限りません。ここでは、インタビュー本番で実りのある結果を得るための「質問力」の磨き方を紹介します

 

「コア質問」と「それ以外の質問」を分けて用意する

企画の目的から「コア質問」と「コア周辺質問」の二つを用意してインタビューに臨むと、聞きたい情報を引き出すことができます。

 

例えば、「ある部署の業務内容を全社に伝える」という企画の場合、

コア質問 取材対象者に必ず聞くこと。これを聞けなかったら企画趣旨から外れてしまう最も大事な質問。

 

例)「具体的な業務内容は?」「会社の中でどのような役割を果たしているのか?」

コア周辺質問 最優先ではないが、コア情報に肉付けができる。また、コア質問であまり話が広がらなかった時に、角度を変えて再アプローチできる。

 

例)「他部署とはどのような連携をしているか?」「部署内の雰囲気は?」

 

 

話を引き出すフレーズを使いこなす

初対面の相手との対話は、誰でも緊張してしまうものです。質問してもなかなか話が弾まない語り手に対しては、以下に紹介する「上手に話を引き出すフレーズ」を駆使して言葉を引き出すことができます。

 

「より具体的に教えてもらえますか?」 抽象的な話を掘り下げ、具体性のある情報を引き出すきっかけになります。
「なぜですか?」「どうしてそう思われたのですか?」 その人の行動や思考の原点にあるものを掘り下げ、他の人にはない個性が見えてきます。
「そもそもですが…」

(※必要に応じて、”不勉強で恐縮ですが””基本的なことをお伺いしますが”などの枕言葉と併用する)
話を理解するのが難しい場合、原点に立ち戻り、かみ砕いた説明を請います。分からないことは放置せず正直に伝え、インタビューの時間内で疑問点をつぶすことが大切です。

 

 

インタビュアーの基本スタンスは”3つのアイ”

「アイスブレイク」「相槌(あいづち)」「アイコンタクト」の”3つのアイ”はインタビュアーが取材中に心がけるべき基本スタンスです。

 

◆「アイスブレイク」で相手の緊張をほぐす

相手の緊張をほぐすために有効なのが「アイスブレイク」です。

 

挨拶や名刺交換が終わったあと、本題に入る前に、天気や季節のこと、相手の職務やプロフィールについて答えやすい質問をすることで、和やかな関係を作ります。インタビュー慣れしている相手や、取材時間が短い場合は省略してもかまいません。

 

◆「アイづち」で相手に安心感を与える

人が心を開いて話をしたくなるのは、自分の話がしっかり受け止められている手応えを感じられる時です。それは取材の場でも同じです。「私はあなたの話を聞いています」ということを相づちで示し、自由に気持ちよく話してもらいましょう。ここでは、いくつかの相づちのバリエーションを紹介します。

 

肯定・共感:

共感されていると感じると、「この話もしてみようかな」と別のコア情報が出てきやすくなります。

「おっしゃる通りですね」「やはりそうですよね」「私も○○さんだったらそう感じると思います」
驚き・疑問:

「その話気になる!もっと話して」と興味があることを示すことで、テンポよく話の核心に迫ります。

「本当ですか!」「なぜそんなことに!」「それから、どうなったんですか?」

インタビューの場では、礼儀と節度は守りながらも、こちらが感情を動かされたことや興味があることはすこし大げさなくらいに表現し、相手の話を促しましょう。

 

◆「アイコンタクト」は適度に

適度なアイコンタクトは「あなたの話を聞いています」という安心感につながります。

メモ取りは要点のみでよいので、基本姿勢としては、顔と体は相手の方に向け、相手が話す時の表情や身振りにも関心をもって、要所要所で目を合わせましょう。

 

ずっと凝視し続けるのも不自然ですが、インタビュアーが下を向いてばかりでは、語り手は「この人は本当に聞いているのだろうか?」と心配になります。

 

「人と目を合わせるのがどうしても苦手」という場合は、無理をせず、相手の眉間を見るようにするようにしましょう。自分もリラックスして進行することが大切です。

 

 

4.プロのライターを起用する

担当者様にインタビューやライティングの経験がない場合や、他の業務でいそがしくてそこまで手が回らないという場合は、プロのライターを起用するのも良いでしょう。メリットとしては以下のようなものがあります。

 

インタビュー失敗のリスクを最小限に抑えられる

社内報のインタビューでは相手が役員や実績のある功労者であることも多いものですが、特に担当者様が若い場合、緊張のあまり言葉遣いを間違えてしまった、遠慮して聞くべきことを確認できなかった、話の内容が高度すぎてついていけなかった、という失敗談をよく聞きます。そのようなリスクは、プロのライターに依頼することによって最小限に抑えられます。

 

プロのテクニックを見て学ぶことができる

プロのライターは文章を書くことだけではなく「初対面の人から話を聞き出すプロ」であり、「なかなか話してくれない人から話を引き出すプロ」でもあります。担当者様はインタビューに同席するうちに、その技術を見て覚えるため、、いずれ自分でも進行ができるようになります。

 

「聞く時間」「書く時間」を省ける

取材執筆はそれなりの時間を要する作業です。大企業の社内報担当者様の多くが、全面的あるいは部分的にプロのライターを活用している一番大きな理由は、専門性の高い分野を外注することで時間を節約すれば、自分はより全体的な企画や運用に集中できるという点にあるようです。

 

インタビュー現場を客観的に見ることができる

プロのライターを起用すると、自分自身は客観的にインタビュー現場を見られます。すると、「必要なことが聞けていない」「この要素をもう少し深堀りしたい」という殊に気が付く余裕が生まれ、インタビューの軌道修正や効果的な追加質問ができるようになります。語り手とライターの橋渡しとしてその場を仕切ることで、より良い記事作りができるのです。

プロットの作り方

原稿を書き出す前には、必ずプロット(あらすじ)を用意します。例えば、取材音源(あるいは書き起こし)をもとにした3,000字程度のストーリーをいきなり書こうとすると、途中で必ず破綻します。どんな時でも、執筆に先立ってプロットの目安をたてる習慣を身に付けましょう。あらかじめ作った骨格に沿って肉付けをしていくことで、読みやすいストーリーを無駄なく書きあげることができるので、総合的な時間短縮にもつながります。

 

1.プロットとは

プロットは「物語のあらすじ」です。人は文章を読む時、頭の中でストーリー(物語)を追いかけながら理解を進めます。最期まで興味を持って読み切ってもらう長文には、必ずその骨格があります。人の自然な喋りは、いたるところで前後したり理論的に飛躍・省略があったりするものですが、その語りやバラバラな資料情報を、しっかりしたプロットに沿って整理していくことで人を惹きつける文章を書くことが出来ます。

 

 

2.3つの基本型の比較

読みやすいプロットにはいくつかの型があります。よく知られているものに、「起承転結」、「序破急(じょはきゅう)」、「PREP(プレップ)」などがあります。

①起承転結は、プロジェクトストーリーや製品紹介など、テーマを問わずに使いやすい汎用的な「型」です。例えば、あるプロジェクトストーリーを起承転結に当てはめるとこうなります。

 

  • 「起」製品Aは当社の主力製品です。しかし1年前に重大な欠陥が見つかりました。
  • 「承」私たちは迅速に対策室を立ち上げ、採算度外視で全品を回収することを決定しました。
  • 「転」競合他社にお客さまを奪われることも覚悟しての決断でしたが、組織の誠実さが評価され、顧客離れは最小限に食い止めることができました。
  • 「結」今年、再上市してからの製品Aは、当時の対応を口コミで聞いたという新規のお客さまからの契約も順調に増え、以前を凌ぐ売上を記録しています。

 

②序破急(じょはきゅう)は、舞楽・能楽の構成形式から転じた伝え方の型です。短い文章でテーマをはっきりと印象付けたい場合に向いています。導入部の問い建て「序」で読み手の心をつかみ、「破」でぐっと展開させ、「急」で、しばし最初の問いに対する解を与えて、読み手を納得・満足させます。先ほどの起承転結例の内容を、序破急に当てはめると次のようになります。

 

  • 「序」今年市場シェアNo.1で最高売上を記録している製品Aですが、1年前に重大な欠陥が見つかったことは覚えていますか?
  • 「破」私たちは当時、迅速に対策室を立ち上げ、競合他社にお客さまを奪われることも覚悟して全品回収の方針をたてました。
  • 「急」その誠実な対応が新規のお客さま獲得にもつながり、今年、再上市してから以前を凌ぐ売上につながっているのです。

 

起承転結も序破急も、物語が始まり、何か事件が起きて、それを解決していくというストーリーは同じです。しかし比べてみるとスピード感に違いがあります。読者に対して、前者は社内の葛藤や危機を乗り越えたストーリーを印象づけるのに対して、後者は誠実さが大事だったという信念が強調されます。

 

③PREP(プレップ)法 プレゼンテーションの手法として有名ですが、トップメッセージのように簡潔なことを説得力を持って伝えたい文章に有効な場合もあります。

 

  • P=Point(結論): 私たちは誠実さを大切にする組織です。
  • R=Reason(理由): これまで事業が続いてきたのも、誠実さこそがお客さまに指名される理由だと信じて行動してきたからです。
  • E=Example(事例、具体例): 去年、主力製品Aの重大な欠陥が見つかった際に、私たちは採算度外視で全品回収の方針を立て迅速に対応しました。その結果、再上市してからの製品Aは以前を凌ぐ最高売上を記録しています。
  • P=Point(結論を繰り返す): 私たちは誠実さを大切にする組織です。

 

冒頭と最後で同じメッセージを繰り返し、理由や具体例を添えて読み手に印象付けます。

 

 

3.プロットの書き進め方

プロットは、上記のような型を用いてストーリーの大筋を決めるものですが、手順としては以下のように書き進めると良いでしょう。

 

STEP1 キーメッセージを決める

STEP2 型を決める

STEP3 各項目の要素となる内容を書き出す

 

プロットの作成手順について、実際の例を用いて説明します。

 

     ◆例)新製品開発プロジェクトストーリー

 

STEP1 キーメッセージを決める

  • キーメッセージとは、その文章を通じて最も伝えたいことです。執筆に着手する前に、その記事を通して何を伝えたいの要点を練り切ることで、一貫性のある文を書き上げることができます。キーメッセージは箇条書きやメモではなく、文章で具体的に書き出しましょう。それが、自分の頭の整理にもなります。

 

 製品Xの開発は、10年近く前に3人の社員の情熱から始まった。競合に遅れての市場参入であったが、3つの壁(全員兼業、上層部の疑問視、強い競合製品)を乗り越えて、A市場でNo.1のシェアを獲得するに至った。

 

 製品Xが、市場No1を獲得するまでの3人の苦労話

 

STEP2 型を決める

 

  • STEP1でつくったキーメッセージを支える骨格を決めます。型に沿って導入部(キーライン)を先に書き出します。ここも、箇条書き・メモではなく文章で書きましょう。

 

「起承転結」を型として選んだ場合、

 

  1. 1.:新製品開発のはじまりは2013年だった
  2. 2.:3人が兼業で新製品開発プロジェクトを立ち上げた
  3. 3.:いくつもの困難があったが、乗り越えることができた
  4. 4.:市場売上金額シェアNo.1になった

 

STEP3 各項目の要素となる内容を書き出す

 

  • STEP2で作った骨子の中に、具体的な出来事を組み込んでいきます。型のキーラインを読んで読者の頭の中に自然に浮かぶ「なぜ?」「どんなふうに?」という問いに答える形で、パズルのように情報を当てこみます。

 

  1. 1.起:新製品開発のはじまりは2013年だった
    1.   a.2010年頃からA市場が急速に拡大してきていた
    2.   b.2011年頃からA市場参入の議論をしていた
    3.   c.2013年、A市場を第3期中計で重点領域に指定した
  2. 2.承:3人が兼業で新製品開発プロジェクトを立ち上げた
    1.   a.2014年、新製品開発プロジェクトが立ち上がった
    2.   b.初期メンバーは、研究開発部の3名だった
    3.   c.当時は全員他業務と兼務だった
  3. 3.転:いくつもの困難があったが、乗り越えることができた
    1.   a.主業務部門の上長は、当初このプロジェクトを疑問視していて、一時期存続が危ぶまれた
    2.   b.競合C社の新製品は想像以上にハイスペックだった
    3.   c.メンバーにはこの製品を実現したいという強い思いがあり、実現のために奔走した
    4.   d.負けない仕様を考えるとコストがかかりすぎたが、コスト削減のために生産技術部が全面協力してくれた
  4. 4.結:市場売上金額シェアNo.1になった
    1.   a.2018年、新製品Xが誕生し、A市場に参入した
    2.   b.メンバーが苦心して開発した独自の機能が市場の新たなニーズにマッチして、爆発的に売れた
    3.   c.製品改良を重ね、2020年には市場シェア1位を獲得した

 

プロットの巧拙は、記事の読みやすさだけではなくライティングの作業効率に直結するので、最初の段階で、自分で得心できるまで考え尽くします。

 

良いプロットを組んでおくと、執筆自体は、必要なストーリーを肉付けしたり伝わりやすい表現を整えていく作業になり、着手してからの迷いや無駄を最小限にとどめることができます。

💡社内報コンサルタントからのワンポイントアドバイス

 

執筆の際に重要なことは、インタビューの中でどんなに印象的な言葉があっても、プロットに関係がなかったり、矛盾した主張になるようなものは思い切って捨てる勇気を持つことです。

 

慣れないうちは、執筆に突入してから自分が経てたプロットの無理・矛盾に気づいたり、より良い型を思いついてしまうということもあるかもしれません。その場合には最初の型を手放してもかまいません。

 

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